売り方の追証——空売りは上昇と逆日歩でダブルパンチになる

空売りの追証は「上昇」で来る

信用取引には信用買い(ロング)信用売り(ショート) の2種類があります。

買い方の追証が株価の「下落」で来るのに対し、空売りの追証は株価の「上昇」で発生します。

仕組みをおさらいします。

  1. 証券会社から株を借りて売る(現金を受け取る)
  2. 株価が下がれば安く買い戻して差額が利益
  3. 株価が上がると買い戻しコストが増えて評価損が膨らむ

この評価損が保証金を侵食し、維持率が追証ラインを下回ると追証です。

売り方の維持率計算

前提: 建玉(空売り)100万円、保証金30万円(初期維持率30%)、追証ライン20%

維持率の計算は買い方と同じ構造です。ただし分母(建玉時価)が株価上昇とともに増える点が買い方と逆になります。

上昇幅評価損実質保証金建玉時価(買い戻しコスト)維持率
+0%0万円30万円100万円30.0%
+3%3万円27万円103万円26.2%
+5%5万円25万円105万円23.8%
+8.3%8.3万21.7万108.3万20.0% ⚠️
+10%10万円20万円110万円18.2%
+15%15万円15万円115万円13.0%
+20%20万円10万円120万円8.3%

+8%程度の上昇で追証ライン(20%)に到達します。

買い方と売り方の比較——なぜ売り方の方が少ない値幅で追証になるか

同じ初期維持率30%で比較します。

買い方売り方
追証を引き起こす方向株価下落株価上昇
追証ライン(20%)到達−12.5%の下落+8.3%の上昇

売り方の方が少ない値幅で追証になります。

理由は分母(建玉時価)の動きにあります。

  • 買い方: 株価が下落すると建玉時価も減る → 分母が小さくなる方向に働くので維持率の悪化が若干和らぐ
  • 売り方: 株価が上昇すると建玉時価(買い戻しコスト)が増える → 分母が大きくなる方向に働くので維持率が加速度的に悪化する

「空売りは理論上の損失が無限大」と言われる理由もここにあります。株価が2倍になれば買い戻しコストは2倍ですが、下落で損する買い方は最大でも投資元本がゼロになるだけです。

逆日歩——制度信用特有のリスク

売り方のリスクは追証だけではありません。制度信用で空売りをしている場合、逆日歩が追加コストとして発生することがあります。

逆日歩の仕組み

証券会社は、空売りの顧客に貸すための株を機関投資家などから借りています。空売りが集中して株が品不足になると、証券会社は高い調達コストを払わざるを得ません。このコストが逆日歩として空売り側に転嫁されます。

項目内容
発生タイミング前日の品貸し計算で決定、翌日に徴収
金額1株あたり数銭〜数十円(銘柄・日によって異なる)
発生条件貸出可能な株数(貸株残)より空売り残が上回った場合
上限1株・1日あたりの最大逆日歩は東証規定で決まっている

逆日歩は連日発生することがあります。急騰株に空売りを入れると、株価上昇による評価損に加えて逆日歩が毎日課金される状況になりかねません。

ダブルパンチの計算例

例:空売り建玉100万円(株価1,000円×1,000株)

2日間で株価が+15%上昇(1,000円 → 1,150円)、逆日歩が1日あたり1株5円発生した場合:

コスト項目計算金額
評価損(+15%上昇)150,000円分−15万円
逆日歩(5円×2日×1,000株)10,000円−1万円
合計ダメージ−16万円
保証金残30万−16万14万円
維持率14万÷115万12.2%

2日間で初期30%から12%まで一気に落ちます。逆日歩がなければ13%でしたが、逆日歩が加わることでさらに悪化しています。

制度信用 vs 一般信用——逆日歩を避けるには

逆日歩が発生するのは制度信用のみです。一般信用には逆日歩がありません。

制度信用一般信用
逆日歩あり(最大逆日歩リスクあり)なし
在庫潤沢限りあり(人気銘柄は枯渇しやすい)
貸株料低め(年1.15%程度)高め(年3〜15%程度、証券会社による)
人気銘柄の空売り可能だが逆日歩リスク在庫がなければ不可

判断の目安:

  • 「逆日歩リスクを避けたい」→ 一般信用(在庫があれば)
  • 「長期間保有でコストを抑えたい」→ 制度信用(逆日歩の発生状況を毎日確認する)

空売りをする前に確認すること

  1. 貸借倍率(信用倍率)を確認する — 売り残が多い(倍率が低い)銘柄は逆日歩が発生しやすい
  2. 一般信用の在庫を確認する — 逆日歩リスクが高い銘柄は一般信用を優先
  3. 初期維持率を余裕ある水準に保つ — 最低でも40〜50%。+16〜25%の上昇まで耐えられる水準

空売りは正しく使えば下落相場での利益獲得やヘッジに有効な手段ですが、上昇と逆日歩のダブルパンチリスクを十分に理解した上で使ってください。


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免責事項: 本記事は筆者個人の見解をまとめたものであり、投資助言や売買推奨を行うものではありません。信用取引には元本を超える損失が発生するリスクがあります。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。