信用評価損益率とは — 個人の「含み損の深さ」で相場の底を測る

信用評価損益率とは

信用評価損益率とは、信用取引で買い建てされているポジション全体が、平均してどれくらい含み損益を抱えているかを示す指標です。

信用評価損益率(%) = 信用買い建玉の評価損益合計 ÷ 信用買い建玉の建て代金合計 × 100

たとえば信用買い残の建て代金合計が3兆円で、評価損の合計が3,000億円なら、信用評価損益率は**−10%**。「信用買いをしている個人投資家は、平均して10%の含み損を抱えている」ことを意味します。

データは週次で集計され、毎週の信用残の発表に合わせて算出・報道されます。日経新聞の市況面や証券会社のマーケット情報で「評価損率」「信用評価損率」として目にする数字がこれです。

信用買いの主体は圧倒的に個人投資家です。つまりこの指標は、「信用取引をしている個人が今どれくらい痛んでいるか」の体温計として機能します。

なぜほぼ常にマイナスなのか

初めてこの指標を見ると、多くの人が疑問に思う点があります。

「なぜいつもマイナスなのか?」

上昇相場でも、信用評価損益率がプラス圏に浮上することはめったにありません。理由は人間の行動パターンにあります。

  • 利益が出た建玉は、すぐに決済されて消える — 利益確定は心理的に簡単なので、含み益ポジションは統計に残りにくい
  • 含み損の建玉は、決済されずに残り続ける — 損切りは心理的に難しく、「戻るまで待とう」と塩漬けにされやすい

結果として、集計時点で残っている建玉は含み損のものに偏るのです。これはプロスペクト理論でいう「損失回避」がそのまま統計に表れた形で、塩漬けの心理については塩漬け株の対処法でも扱ったテーマと同根です。

だからこそ、この指標は「プラスかマイナスか」ではなく、**「マイナスの深さ」**で読みます。

水準の目安表

過去の相場でおおむね意識されてきた水準は次の通りです。

信用評価損益率状態相場の位置づけの目安
0〜−3%前後過熱気味個人がほぼ含み益。高値警戒ゾーン
−5〜−10%前後通常平常時はだいたいこの範囲で推移
−15%前後悲観追証が出始める。投げ売りが増える
−20%前後総悲観歴史的に大底圏とされてきた水準

ポイントは両端です。

  • −3%より浅い:個人の信用買いがほぼ全員含み益という異常事態。相場の過熱を示し、天井が近いサインとされることがある
  • −20%前後:個人が平均2割の含み損という極限状態。過去の暴落局面では、この水準前後で底を打つケースが繰り返されてきた

ただし、これはあくまで過去の傾向にもとづく目安です。−20%で必ず底を打つ保証はなく、リーマンショック級の危機では−30%を超えて悪化した例もあります。「−20%に達したから全力買い」という機械的な使い方は危険です。

なぜ−20%が「底」のシグナルとされるのか

−20%という水準に意味があるのは、そこが追証の大量発生ラインと重なるからです。

信用取引では、建玉の含み損が膨らんで委託保証金維持率が一定水準(多くの証券会社で20〜25%)を割ると、追加保証金——いわゆる追証——を差し入れる必要があります。仕組みの詳細は追証とは何かで解説していますが、重要なのは次の連鎖です。

  1. 株価下落で含み損が拡大し、評価損益率が悪化する
  2. 維持率を割り込んだ投資家に追証が発生する
  3. 追証を入金できない投資家の建玉が**強制決済(成行売り)**される
  4. その売りがさらに株価を押し下げ、次の層に追証が発生する

この「追証→投げ売り→さらなる下落→追証」のドミノ倒しは、売るべき人が売り尽くすまで続きます。そして経験則上、評価損益率が−20%前後まで悪化した頃には、投げるべき建玉の大半が投げ終わっている——つまり**セリング・クライマックス(投げ売りの出尽くし)**を迎えていることが多いのです。

売り圧力の主役だった「追い込まれた個人の売り」が枯れれば、あとは需給が軽くなり、反発しやすくなる。これが−20%が逆張りの買いシグナルとされる理屈です。

「悪材料が消えたから底を打つ」のではなく、「売る人がいなくなったから底を打つ」。信用評価損益率は、この需給の出尽くしを数字で捉えようとする指標だといえます。

急落局面でこの指標はどう動くか

平常時は−5〜−10%あたりをゆっくり上下する指標ですが、急落局面では動きが一変します。

数日で−10%台前半から−15%、−20%へと一直線に悪化し、その過程で追証の強制決済売りが市場に叩きつけられます。日経平均が1日で4,451円下落した2024年8月5日の暴落は、この連鎖が極端な形で表れた実例でした。詳細は2024年8月5日の歴史的暴落と追証で検証していますが、急落の最終局面で出来高を伴った投げ売りが出て、評価損益率が急激に悪化したところが、結果的に絶好の買い場になっています。

注意したいのは、この指標が週次データであることです。急落の真っ最中には最新値がまだ発表されておらず、公表された時点では状況が変わっていることがあります。急落時は日次で概算値を推計・公表しているデータソースを併用するのが実践的です。

信用評価損益率の確認方法

  • 松井証券 — 独自集計の信用評価損益率を日次で公表しており、速報性が高いことで有名。急落局面ではとくに重宝します
  • 日本経済新聞 — 週次の信用残発表に合わせて評価損率を報道
  • 各証券会社のマーケット情報・投資情報サイト — 週次データの推移グラフを掲載しているところが多い

実戦で使うなら、週次の公式データで大きな流れを、松井証券の日次データで急落時の変化を追う、という二段構えがおすすめです。

使い方の注意 — 単独では売買しない

信用評価損益率は優れた需給指標ですが、これ単独で売買の引き金を引くべきではありません

1. 「目安」であって「法則」ではない

−20%はあくまで過去の傾向です。金融危機級の下落では−20%を突き抜けてさらに悪化した例があり、「−20%タッチで即買い」は下落ナイフを素手で掴む行為になりえます。水準に達したら「底が近い可能性が高まった」と構え、実際の反転(出来高を伴う下ヒゲ、売られ過ぎ指標の反転など)を確認してから動くほうが安全です。

2. ほかの需給指標と併用する

  • 信用倍率・信用買い残 — 買い残が異常に膨らんだままなら、投げ売りはまだ出尽くしていない可能性があります。見方は信用倍率の見方と危険水準を参照してください
  • 騰落レシオ — 70%割れの売られ過ぎ水準と評価損益率の悪化が重なると、底打ちの信頼度が上がります
  • 裁定残・空売り比率 — 海外勢・機関側の需給も合わせて見ると、反発の持続力を推測しやすくなります

3. 「個人の総悲観」は仕掛けの対象にもなる

評価損益率が悪化し追証予備軍が積み上がった状態は、裏を返せば売り仕掛けで投げ売りを誘発しやすい状態でもあります。短期筋が下値を叩いて個人の強制決済を誘う手口は機関投資家が個人の追証を踏ませる3つの手口で解説した通りで、底打ち直前の「最後の一押し」はしばしば人為的に増幅されます。逆張りを狙うなら、この最終振り落としまで想定した資金配分が必要です。

まとめ

  • 信用評価損益率は、信用買いをしている個人の平均含み損益を示す週次の需給指標
  • 利益確定は早く損切りは遅いという行動バイアスのため、ほぼ常にマイナスで推移する
  • 目安は「−3%前後=過熱気味/−10%前後=通常/−15%=追証が出始める悲観/−20%前後=歴史的な大底圏」
  • −20%が底とされるのは、追証→強制決済の投げ売りが出尽くす水準とおおむね重なるから
  • ただし必ず機能する法則ではない。信用倍率や騰落レシオと併用し、実際の反転を確認してから動く

相場の底は「良いニュース」ではなく「売る人の消滅」で作られます。個人の含み損の深さを測るこの指標は、総悲観の中で冷静さを保つための、シンプルで強力な体温計です。


免責事項: 本記事は筆者個人の見解をまとめたものであり、投資助言や売買推奨を行うものではありません。指標の水準は過去の傾向であり将来を保証しません。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。

戦略太郎 @kabu_strategy_g

医学生 × 個人投資家 × 個人開発者。日本株の需給・信用取引を中心に売買しながら、 相場の「しくみ」を数字で検証する記事と、投資計算ツールをNext.jsで開発・公開しています。